「特定用途地域(とくていようとちいき)」とは、市町村が独自に定めることができる制度で、都市計画法上の用途地域や用途地域外においても、特定の用途を制限または誘導するための地域を指します。
もともと、都市計画法には「12種類の用途地域」が定められていますが、それだけでは地域特性に合った柔軟な街づくりが難しい場合に、各自治体が補完的に設定するのがこの「特定用途地域」です。
実際には「特定用途制限地域」と呼ばれることもあり、独自の規制や緩和措置がとられる場合があります。
特定用途地域が導入される背景
多様化する街づくりへの対応
一般的な用途地域だけではカバーしきれない、より細やかな地域のニーズに応えるために設定されます。
たとえば、歴史的な町並みを保全したい、特定の産業を誘導したい、特定の建築物の進出を防ぎたいなど、多様な目的に合わせて活用されるのが特長です。
地域住民の生活・環境を保護
大型の商業施設や風俗店などが急増すると、静かな住宅環境が損なわれたり、交通渋滞や騒音問題が生じたりする可能性があります。
特定用途地域として用途を制限することで、住民の生活品質を守る仕組みを整えやすくなります。
具体的な規制内容
用途の制限・誘導
特定用途地域では、建築できる建物の種類や規模を詳細に定めることが可能です。
たとえば、商業系の施設や宿泊施設を制限しつつ、地元の観光資源を活かすために小規模な宿泊施設のみ許可する、など自治体ごとに独自のルールが設定されます。
高さ・外観の規制
建物の高さやデザイン、色彩などを規定し、町並みを統一感ある景観に保つこともあります。
住宅地であれば低層建築を推奨したり、景観保護のために看板の設置を制限したりするなど、多様なアプローチがとられます。
既存の用途地域との併用
特定用途地域は単独で存在する場合もありますが、既存の「第一種低層住居専用地域」「商業地域」などと重ねて指定することも可能です。こうすることで、より細かい用途規制・誘導が実現します。
メリットとデメリット
メリット
- 地域特性に合ったまちづくり
一般的な用途地域では捉えきれない細かな要望を反映でき、独自の魅力を持つ街づくりが可能となります。 - 生活環境の維持・向上
騒音や交通量が増えすぎないように調整できるため、住民にとって快適な環境を保ちやすい点は大きなメリットです。 - 資産価値の安定
特定の建物や施設の進出が制限されることで、地域全体のブランドイメージや景観が守られ、資産価値が下がりにくくなる場合があります。
デメリット
- 規制が増えることで建築の自由度が低下
建築主の側から見ると、多くの制約が加わる分、自由な建築計画が立てにくくなる可能性があります。 - 地域によって制度運用が異なる
特定用途地域の設定や運用は各自治体ごとに大きく異なるため、他の地域と比べてわかりにくい部分が生じやすいです。 - 行政手続きが複雑化
建築確認や許認可の過程で、用途地域以外のルールも加味する必要があるため、行政手続きが煩雑になることがあります。
豆知識:確認すべきポイント
市町村の都市計画図をチェック
特定用途地域の範囲や規定内容は、市町村の都市計画図や条例で公開されています。
土地を購入する前や建物を建てる前に、必ず情報を入手しておきましょう。
景観条例や独自のガイドライン
特定用途地域に指定されるエリアは、景観条例や歴史的建造物の保護ガイドラインなどが併せて適用されるケースがあります。外観デザインや建築素材への制限があるか確認しておく必要があるでしょう。
将来的な計画変更リスク
特定用途地域は必要に応じて自治体が指定・変更するため、将来的に用途規制が追加・緩和される可能性があります。
事前に行政のまちづくり計画を把握しておくと安心です。
「特定用途地域」に関するまとめ
特定用途地域は、既存の用途地域では十分に対応しきれない地域のニーズや特色に合わせて、自治体が独自に設定する仕組みです。
これによって、騒音や交通問題の対策、景観保護、地域産業の誘導など、多様な目的を持ったまちづくりをきめ細かく進められます。一方で、建築・開発の自由度が下がる、行政手続きが複雑になるなどのデメリットもあります。
もし特定用途地域内での土地購入や建築を検討しているなら、まずは自治体の都市計画や条例をしっかり確認、理解したうえで、専門家に相談すると安心でしょう。
地域特性を生かしつつ、快適で持続可能な住環境・事業環境を実現できるかどうかが、特定用途地域の大きな鍵となります。